お金のことしか考えていなかった弟チャーリーが、はなれて暮らしていた兄レイモンドと、車で旅をする物語です。レイモンドは自閉症という特性があり、はじめはうまく気持ちが通じません。この記事では、あらすじから時代背景、モデルになった人や裏話まで、やさしく紹介します。
公開:1988年(日本は1989年) 国:アメリカ 上映時間:約2時間13分 監督:バリー・レヴィンソン
車を売る仕事をしている若い男チャーリー。ある日、はなれて暮らしていた父が亡くなり、大きな遺産(のこされたお金)が、チャーリーの知らなかった兄レイモンドにわたることを知ります。
じつはレイモンドは、施設で生活している自閉症の人でした。はじめチャーリーは、お金目当てで兄をつれ出します。
けれども、二人で西へ向かう長い車の旅の中で、チャーリーは少しずつ、兄の本当の姿と、家族の思い出に気づいていきます。
この映画のはじめ、チャーリーは兄を「自分の得になるかどうか」でしか見ていませんでした。でも旅の中で、そうではない大切なものに気づいていきます。
➡ 「その人が何をしてくれるか」ではなく、「その人がそこにいること」そのものが大切――そんな問いを、この映画は投げかけます。
人の価値は、テストの点数や、できること・できないことだけで決まるのでしょうか。レイモンドとチャーリーの関係を見ながら、いっしょに考えてみましょう。
レイモンドには自閉症という特性があります。自閉症の人は、得意なことと苦手なことが、人によって大きくちがいます。
- 数を一瞬で数える
- 見たこと・読んだことをよく覚えている
- いつもの手順を正確に守る
- 予定が急に変わると不安になる
- 気持ちを言葉で伝えるのがむずかしい
- 大きな音や人ごみがとても苦手
これは「レイモンドという一人の人」のようすです。自閉症の人がみんな同じというわけではありません。一人ひとり、ちがう――ここがいちばん大切なポイントです(くわしくは後のセクション10で)。
『レインマン』が公開された1988年(昭和63年)は、今から約40年ほど前。日本では昭和の終わりのころで、みんなのお父さん・お母さんが子どもだった時代かもしれません。
🎬 日本のできごと
- スタジオジブリの名作が公開!『となりのトトロ』と『火垂るの墓』が、この年に公開されました。今も愛される作品です。
- テレビゲームが大人気「ファミコン」でたくさんの子どもたちが遊んでいました。マンガ・アニメの『ドラゴンボール』も、このころとても人気でした。
- 「バブル」とよばれる好景気日本は景気がとてもよく、街がにぎやかだった時代です。「バブル経済」とよばれます。
🌍 世界のできごと
- 韓国(かんこく)のソウルで夏のオリンピックが開かれました。
- アメリカでは、映画館で一気に大ヒットする「大作映画」がさかんに作られていました。『レインマン』は、その年のアメリカでいちばんお客さんを集めた映画になりました。
💡 楽しい大ヒット映画が多い中で、『レインマン』は「人と人のつながり」をていねいにえがき、多くの人の心に残りました。
アメリカ・ボルチモアの出身。デビュー作『ダイナー』をはじめ、人と人との会話や気持ちをていねいにえがくのが得意な監督です。
じつは『レインマン』は、監督が何度か代わった後に、レヴィンソンが完成させた映画でした(くわしくはセクション9の裏話で)。むずかしい題材を、あたたかい物語にまとめ上げました。
レイモンドをえんじたベテラン俳優。役づくりのために、実際に自閉症のある人たちと会って、話し方やしぐさをていねいに研究しました。その演技が高く評価され、アカデミー主演男優賞を受賞しました。
🏆 アカデミー主演男優賞弟チャーリーをえんじました。撮影当時はまだ25歳ごろの若手。はじめは自分勝手だったチャーリーが、旅を通して少しずつ変わっていくようすを見事にえんじています。その後、世界的な大スターになりました。
この映画の脚本を書いたバリー・モローは、キム・ピークさんという実在の人物と1984年に出会い、大きな刺激を受けました。
キムさんは、たくさんの本の内容をおどろくほど正確に覚えている、すばらしい記憶の持ち主でした。生まれつき脳の一部が多くの人とちがっていた人です。
ちゅうい:キムさんは若いころ「自閉症」と言われたこともありましたが、のちの研究では自閉症ではなかったと考えられています。つまり映画のレイモンド=キムさん、ではありません。レイモンドは、いろいろな人を参考にして作られた「映画の中の人物」です。
脚本家のモローさんは、後に受賞したアカデミー賞のトロフィー(オスカー像)を、キムさんに贈りました。二人の友情が伝わる、すてきな話です。
レイモンドが、自信をもってくり返す有名なひとことがあります。
短いセリフですが、レイモンドという人物の魅力が詰まった、この映画を代表するひとことです。
- ① つまようじの名シーンゆかにこぼれたつまようじの数を、レイモンドが一瞬で言い当てる場面があります。じっさいに246本をこぼして撮影しました(箱には250本入っていて、4本は箱に残っていた、という演出です)。
- ② 監督が何度も代わったこの映画は、完成するまでに監督が何度か代わり、最後にバリー・レヴィンソンが引きつぎました。長い時間をかけて、ようやく完成した作品なのです。
- ③ 監督が“こっそり”出演物語の終わりのほうに、レヴィンソン監督じしんがお医者さんの役でちょっとだけ出演しています。名前は出てこない、かくれた出演です。探してみましょう。
- ④ アメリカ各地で撮影物語は東から西へ進む旅。撮影も、オハイオ・ケンタッキー・オクラホマ・ネバダ(ラスベガス)など、アメリカの各地で行われました。まさに「ロードムービー(旅の映画)」です。
『レインマン』は世界中で見られ、「自閉症」という言葉が多くの人に知られるきっかけになりました。これはとても大切なことです。
映画のレイモンドは、自閉症の人の「一つの例」にすぎません。「自閉症の人はみんな数字が得意」「みんなレイモンドのよう」と考えるのは正しくありません。
➡ 映画は世界を知る「入り口」。そこから「本当はどうなんだろう?」と自分で調べていくことが大切です。これをメディアリテラシーといいます。
1989年のアカデミー賞で、この映画は全8部門にノミネートされ、4つの賞を受賞しました。
- 🏆 作品賞その年の「いちばんの映画」に選ばれました。
- 🏆 監督賞バリー・レヴィンソンが受賞しました。
- 🏆 主演男優賞レイモンド役のダスティン・ホフマンが受賞しました。
- 🏆 脚本賞お話づくりのすばらしさがみとめられました。
ドイツで開かれる映画祭(ベルリン国際映画祭)でも、いちばんの賞「金熊賞」を受賞しました。世界中で高く評価された作品です。
🌱 今日のまとめ
『レインマン』は、ただの兄弟の物語ではありません。
- 「役に立つか」で人を測らなくていい
- 得意・苦手は、一人ひとりちがっていい
- 相手を知ろうとすると、関係は変わっていく
- 映画は世界を知る「入り口」。そこから自分で調べていこう
だから今でも、公開から約40年たった今も、多くの人に語りつがれている名作です。
「ロードムービー」とは、登場人物が旅をしながら、少しずつ成長したり変わったりしていく映画のことです。『レインマン』は、その代表作の一つ。景色が変わっていくのと同じように、二人の心も変わっていきます。
📚 参考資料(主な出典)
- Encyclopædia Britannica「Rain Man」「Barry Levinson」「Dustin Hoffman」(britannica.com)
- 第61回アカデミー賞 受賞結果(Academy of Motion Picture Arts and Sciences / 各報道)
- The Kim Peek 関連資料(各報道・研究記事)
- 引用:映画『レインマン』(1988年、監督バリー・レヴィンソン)