「明日の朝までに、この命令を届けろ。間に合わなければ1600人が死ぬ」──。第一次世界大戦のフランスで、2人の若い兵士が敵地を横切って走ります。この記事では、数字では見えない「一人ひとりの命の重さ」を考えます。
戦争の教科書には「〇万人が戦死」と数字が並びます。でも、その一人ひとりに名前があり、家族がいて、帰りたい場所がありました。
➡ この特集では、映画を入り口に「戦争とは何か」「平和をどう守るか」を、いろいろな立場の人の目から考えていきます。第1回は、1917年の西部戦線です。
第一次世界大戦(1914〜1918年)では、イギリス・フランスなどとドイツなどが、フランスやベルギーで向かい合いました。両軍は長い溝=塹壕を掘り、何年もにらみ合いを続けました。
1917年の春、ドイツ軍は、より守りやすい「ヒンデンブルク線」まで計画的に退却しました(アルベリッヒ作戦)。「敵が逃げた」と思って追いかけると、じつは待ちぶせの罠かもしれない──映画はこの状況をもとにしています。
※登場人物と物語そのものは創作です。史実をもとにしたフィクションとして見ましょう。
1917年4月、フランス。イギリス軍の若い兵士ブレイクとスコフィールドは、将軍から特別な任務を命じられます。
それは、明日の朝に攻撃を始めようとしている味方の部隊に「攻撃は罠だ。中止せよ」という命令を届けること。部隊には約1600人の兵士がいて、その中にはブレイクの兄もいました。
電話線は切られていて、伝える方法は自分の足で走ることだけ。2人は、敵が去ったばかりの危険な土地を越えていきます。
この映画のいちばんの特徴は、最初から最後まで、ひと続きのカメラで撮ったように見えることです。
- 🎥 全編ワンカット「風」実際には、長回しで撮った複数の映像を、切れ目がわからないようにつないでいます。
- ⏱️ 観客も「その場」にいるカメラが兵士のすぐそばを離れないので、見ている私たちも休めず、逃げられず、一緒に走っている感覚になります。
- 🏆 アカデミー賞3部門撮影賞・視覚効果賞・録音賞を受賞。撮影監督はロジャー・ディーキンスです。
なぜ監督は、場面を切りかえずに「ずっと一緒に」撮ることを選んだのでしょう? 見る人に何を感じてほしかったのか、話し合ってみましょう。
イギリスの監督。『アメリカン・ビューティー』でアカデミー監督賞、『007 スカイフォール』なども手がけました。この映画は、第一次世界大戦で伝令(命令を運ぶ役目)をしていた祖父から聞いた話がきっかけになっています。
任務に気が進まないまま走り出す兵士。旅の中で、彼の心は大きく変わっていきます。
兄を助けたい一心で任務を引き受ける、まっすぐな若者。
有名な俳優たちが、短い場面で上官を演じます。「主役はあくまで名もない若い兵士」という作りです。
「1600人」は大きな数字です。でもこの映画は、その数字を「兄」「友だち」「誰かの子ども」という一人ひとりの顔にしていきます。
- ① 敵も「一人の人」途中で出会うドイツ兵も、同じように若く、怖がっている人間として描かれます。
- ② 小さな優しさ戦場の廃墟で出会う女性と赤ちゃん、分けあう牛乳。極限の中でも人は人を助けようとします。
- ③ 命令と良心「命令だから攻撃する」のか、「命を守るために止める」のか。軍隊の中の判断の重さも見えてきます。
🌱 今日のまとめ
戦争の数字の向こうには、いつも一人の人がいます。
- 第一次世界大戦は、塹壕でにらみ合う長い戦いだった。
- 映画は「ひと続きのカメラ」で、観客を兵士のすぐそばに置く。
- 敵も味方も、同じように怖がる一人の人間として描かれる。
- 命令と良心、数と一人。戦争の中の選択の重さを考えよう。
監督の祖父アルフレッド・メンデスは、のちに作家になった人物です。監督は、祖父から子どものころに聞いた戦争の話を、長いあいだ心に残していたといいます。映画の最後には、祖父にささげる言葉が出てきます。